蓮  美への行動と日本文化    西山松之助

蓮華蔵世界

蓮の花を測定して、全国くまなく歩きまわったこともないので、この花が最大の花だときめることは当を得ていないであろう。もちろん私の推定なのである。推定なのだが、たぶん誰でもそうだろうと賛成してしてくれるのではないかと思う。その推定最大の花は、奈良の大仏が鎮座している、あの大きな青銅製の蓮華である。あの蓮の花は巨大である。

国体とかオリンピックのマスゲームなどで、もっと大きな花が瞬間的に表現されたことなどもあったかもしれないが、わたしは特別に許されて大仏の台座の蓮弁のところまで上げていただいたことがある。いちばん外側の蓮弁は下向きに開き、内側の蓮弁が迎蓮弁といわれる上向きのもので、この迎蓮弁の一つ一つが、私たちの背よりもはるかに高く、とてつもなく大きいものであった。

外側の下向きに開いている花弁によじ上って、でかいもんだなと思いながらその上に立ってみると迎蓮弁が立ちふさがってあまりの巨大さに、これが蓮華の花弁かと異様な感じになる。しかも、源平の争乱と戦国の乱に遭って二度も本尊大仏は焼け落ちたのに、天平のおもかげをそのまま伝えている蓮の花の部分は、草創期以来千余年間、多くの人の信仰が集まっただけに、今は、一種独特の黒光りに輝いている。よく見ると、その黒光りの表面には、きわめて繊細緻密な天平の線描がいちめんに彫りこまれている。どういう技術で、このような金属面にかくも流麗に、生き生きとよどみない線描が彫りこめたものか、ただ感嘆のほかはない。私はこの線描の絵を見ていて、そのときふっと子供のころ涼台で毎晩ながめた天の河を思いだした。(以下省略)、『花 美への行動と日本文化』(1969年 日本放送出版会 p57~71)より抜粋。西山松之助(1912~2013年)

西山花

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