「蓮」    豊島与志雄 <とよしま よしお> 

 豊島与志雄 <とよしま よしお、 1895年(明治23年)-1955年(昭和30年) 小説家、翻訳家、仏文学者>。

 私は蓮が好きである。泥池の中から真直に一茎を伸ばして、その頂に一つ葉や花や実をつける。その独特の風情もよい。また、単に花からばかりでなく、葉や実や根などからまでも、仄かに漂い出してくる。あの清い素純な香もよい。その形、その香、そして泥土と水、凡てに原始的な幽玄な趣きがある。

 田舎の子供達は、真白な蓮の根をぼきりと折って、中は通ってる八つの穴に何がはいっているかと、好奇の眼を見張りながら、いつまでもじっと覗き込む。または葉の茎を折り取って、それを更に幾つにも小さく折って、折られた茎が細い糸でつながってゆくのを、面白そうにぶら下げて眺める。それにも倦きると、小川の清い水を葉の中にすくい込み、鮒や鯰の子を捕まえてきて、その中に泳がせて楽しむ。或いはまた、大きな花を取ってきて、その真っ白の花弁を一つ一つむしり取り、黄色い雄しべ、雌しべを中にのせ、宝を積んだ舟として、橋の上から川の中に、幾つも幾つも流し浮かべる。(以下略)『豊島与志雄著作集 第6巻』(1967年 未来社)より。

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