仏教が日本に百済からもたらされるのは、一説には552年、一説には538年ともいわれているがどちらが正しいか一概に言えないようである。仏教が日本人に影響をおよぼした精神形成ははかりしれない。仏教が伝来すると短期間のうちに、宮廷や貴族に受け入れられ各地に大寺院が建立され、寺院を荘厳する蓮文様の仏教工芸品が用意された。蓮台に乗る仏像、曼荼羅、仏具、瓦などが制作された。工芸品で蓮文様が描かれいる初期の代表的な作品は、法隆寺の国宝「阿弥陀三尊像」(伝橘夫人念仏 7世紀)であろう。
奈良時代になると、仏教に帰依する人が増え、聖武天皇や光明皇后の発願いにより、寺院で写経が盛んにおこなわれるようになる.平安時代になると、それまで隆盛を極めていた奈良仏教が衰退すると、空海(弘法大師)が真言宗を、最澄(伝教大師)が天台宗を起こした。天台宗の恵心僧正(942~1017)が『往生要集』を著すと、王朝貴族は阿弥陀経の極楽世界を唱える浄土思想の進行にこぞって救いを求め写経をした。当時の耽美的な貴族生活を反映して、料紙に金銀の切箔、砂子を使い、荘厳な意匠をこらした絢爛豪華で比類のない装飾経が生まれた。その代表が平清盛が一族の繁栄を願って厳島神社に奉納した平家納経である。
以下は代表的な装飾経である。 国宝「平家納経」長寛2年(1164) 厳島神社蔵。国宝「扇面法華経冊子」平安時代 大阪・四天王寺蔵。国宝「一字蓮台法華経」平安時代 福島・龍興寺蔵。国宝「一字蓮台法華経普賢菩薩歓発品」平安時代 大和文華館。国宝「慈光寺経」鎌倉時代 埼玉・慈光寺蔵。重文「久能寺経」静岡・久能山鉄舟寺蔵などが知られている。 図は、国宝「平家納経」法華経 信解品第四表紙 厳島神社蔵.