『本朝食鑑』人見必大著 (一七〇一没)元禄10年(一六九七)刊、

本草書。日本の食物全般について、水部以下12部にわけ、品名を挙げて、その性質、能毒、滋味、食法その他を詳しく説明している。食鑑中の白眉とされる。「水菜類十六」では、「地下茎(蓮の根)」について、次のように出ている。

蓮根’れんこん)

[釈名]蓮の根は藕である。『和名抄』には〔『爾雅』に、荷は芙ふきょ(草冠+渠

はすの別名)といい、その本はみつ(草冠+密 はすの根元)、茎は茄、葉ははすのね(草冠+遐)であるが、遐もまた荷の字に同じ。華はかん(草冠+函たん草冠+□)(はすの花のまだ開かぬもの)という。『兼名苑』には、蓮は花の開いてしまったのものを芙きょ(草冠+渠)といい、まだ舒びていないものをかんたん(草冠+函、草冠+□)という。また子は蓮、その中は的、的(はすの実)とは蓮中の子をいう〕とある。李時珍『本草綱目』の釈名に、詳らかに名義が論じられてある。

[集解]各地の泥池および沼沢湖に多くある。蓮子を種えるばあいは生えるのが遅いが、藕の芽を種えるばあいは最も発芽しやすく、その芽は白蒻(泥中にある根)をなす。これがつまりはい(草冠+密)である。長さは一丈余になる。五、六月の若い時に、水に没って取れば、はい(草冠+密)を得る。これを藕糸菜という。華人はこれを賞して蔬と作して茹べる。我が国では昔から波恵といって賞でており、歌人もこれを詠んでいる。節は二茎を生じる。一つは藕荷〔浮葉〕となり、葉は水に貼き、下は傍に行き藕を生じる。もう一つきに<(草冠+支)荷>立葉となる。葉は水を出て、旁茎には、花が生じる。葉は清明(陰暦三月の節気)後に生じる。六、七月に花が開く。花は紅・白・粉紅の三色があり、花心に黄鬚をもつ。蘂の長さは一寸余、鬚内がすなわち蓮である。

また、千葉紅というものがある。近頃は白蓮花の葩の端の淡紅で一、二寸のものがあり、これを口紅という。あるいはまた碧色のものもある。当今、駿陽(みなみするが)にあって、土地の人が仏の青蓮座と言っているもののことである。しかし予はまだこれを見ていない。もし一つの池に紅白を雑種えると、その少ない方が枯れ尽きる。それで塘を築いて隔てるわけであるが、池の広さが、四、五十歩以上のところに両方を相阻てて植えると、倶に盛美である。

近代、子芽を植えることは鮮ない。惟新根を採り泥を穿って種えると、旁行して蔓りやすい。十分に蔓茂したものから復根を採る。根皮は灰黄色か白色、節は黒く、鬚がある。根皮を刮りとれば純白で、孔があり糸がある。根の大きいものは肱臂のようで、長は六・七尺もある。煮蒸し、熱すれば淡黒となる。このとき熱湯中に厳醋少々を加えて二、三沸煮て取り出せば白色のままで、黒く変色しないのも奇である。凡そ野生および紅花のものは、蓮が多く藕は劣っている。種蒔および白色のものは蓮は少なく藕は佳い。世俗では、「蓮は仏の愛するものなので、枯れ衰えそうな時には池の中に僧衲を浸すと死なぬ」という。大抵、蓮は素藍汁を好むものであり、今僧衲は藍で染ているので、当然そうなるのである。(後略) 島田勇雄 訳注『本朝食鑑』(平凡社 1993年版より) パソコンで出てこない活字が少々あるので『本朝食鑑』で確認されたい。

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