屈原

6月12日は旧暦5月5日、中国戦国時代・楚の詩人、屈原(紀元前340―278)の命日です。屈原は貴族出身で臣として懐王に仕えましたが、讒言により二度追放され、自分の思いが王に理解されない悔しさに絶望して汨羅江(べきらこう)に身を投げ60歳で亡くなりました。最初に追放された30歳の頃の詩「離騒」は、屈原の代表作で、中に蓮がでてきます。

製芰荷以為衣兮  芰荷(きか)を製(た)ちて以て衣と為し
集芙蓉以為裳   芙蓉を集めて以って衣裳と為す
不吾知其亦巳兮  吾を知らざるもの其れ亦巳(や)まん
苟余情其信芳   苟(まこと)に余が情其れ信(まこと)に芳し
芰(ヒシ)と荷(蓮の葉)を裁って衣とし、芙蓉(蓮の花)を集めて裳裾とする。私の
値打ちを知る者がなくても、それは仕方がない。そんなことに関係なく本当にわが心持
こそ、実に芳しいのである。

またそのうちのひとつ「九歌」に、湘水の女神の湘夫人が男神を慕って唱う歌があり、ここにも蓮が出てきます。

築室兮水中 室を水中に築き
葺之兮荷蓋 之に荷蓋を葺く(奥部屋を水中に築き、その屋根を蓮の葉で葺く)

孤高の詩人、憂国の詩人と言われた屈原の詩の流れは近代につづき、中国の文学者・歴史学者・政治家で日本にも縁の深い郭沫若(1892-1978)が戯曲にし、それを前進座の河原崎長十郎が初めて演じたのは1962年のことでした。大学生だった私はこの芝居を観ていますが、まだ蓮に関心がなかったので、長十郎演じる屈原が「離騒」や「九歌」を謡ったのかどうか覚えていないのが、今ではとても残念に思います。

 

 

 

 

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