蜘蛛の糸

4月4日「蓮の豆知識」<蓮に香り>について投稿しました。それに関連し思い出したのが、 芥川龍之介(1892~1927)が『赤い鳥』創刊号(大正8年)に発表した「蜘蛛の糸」です。蓮の香りで始り、蓮の香りで終っていますので、冒頭の部分と最後の部分を投稿します。

或日のことでございます。お釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶらお歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまつ白で、そのまん中にある金色の蕋(ずい)からは、何とも言へない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れて居りました。(中略) お釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終をじつと見ていらっしゃいましたが、やがて犍陀多(かんだだ)が血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな顔をなさりながら、又ぶらぶらお歩きになり始めました。

自分ばかり地獄からぬけ出そうとする、犍陀多の無慈悲な心が、そうしてその心相当な罰をうけて、もとの地獄へ落ちてしまったのが、お釈迦さまのお目から見ると、浅間しく思(おぼ)しめされたのでございましょう。しかし、極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には沈着致しません。

その玉のような白い花は、お釈迦さまのお足のまわりに、ゆらゆら萼(うてな)を動かしております。そんなたんびに、まん中にある金色の蕊(ずい)からは、何とも云えない好い匂が、絶え間なくあたりに溢れ出ます。極楽ももうお牛(ひる)に近くになりました。

 

 

 

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